シェンムー 一章 横須賀

シェンムーは、ハングオンなどの体感ゲームや、バーチャファイターなどで大ヒットを飛ばし、 セガの屋台骨を支えてきた天才クリエイター、鈴木裕が中心となり七十億円という破格の予算を使って製作された。
全十六章という壮大なストーリーの予定だったが、2006年現在、2までしか発売されておらず、
シナリオは六章で打ち切られている。人気のないテレビ番組みたいに。

プレイヤーは、武道家の父、芭月巌を殺した男、藍帝を倒す為、息子の高校生、芭月涼となって、仇敵の手がかりを得るべく 80年代の神奈川県横須賀市を探索する。

という目標があるものの、それに至るまでの道筋は完全にプレイヤーにゆだねられている。つまり、ジャンル名のFREEが意味するように自由という事。

毎朝お手伝いの稲さんからもらえる五百円(ポチ袋入り)を元手に、 圧倒的なグラフィックで再現された街中をブラブラしましょう!

駄菓子屋の前で小学生を押しのけてガシャポンに興じたり、 ゲームセンターに行って体感ゲームで小遣いを使い果たしたり、 住み込みの内弟子をボコボコにしたり、三国人にジュースをたかられたり、 米兵に喧嘩を売ったり、家でセガサターンで遊んだり、コンビニで買い物したり、子猫にえさを上げたり、 クラスメイトの花屋の看板娘をストーキングしたり! 仇討ちの十字架を背負った主人公とは思えない、ステキな生活が待っています!

まあ、あんまり寄り道ばかりして時間が経ち過ぎると、藍帝に死というツッコミを入れられるので、 時々でいいから、フラグを立てるのを思い出してください。

ちなみに、ゲーム内では朝から夜へと時間が過ぎていきます。
町の人たちもそれぞれの生活があり、おのおのプログラムされた生活パターンを持っています。
情報収集する際には、この事を頭に入れなければいけません。
あまり夜遅くまで出歩いていると、家に強制送還される所は、なんともシュールです。

おっと、そんな事をやっていると、ゴリライモ のような番長が因縁を吹っかけてきました。
ここでこのゲームの見所のひとつであるQTEが発動します。 画面の指示と同じボタンを押して、サクっと撲殺しちゃいましょう♪
そう、QTEなんてたいそうな名前がついておりますが、やっていることは 二十年前のLDゲームと同じです!
当時の最新高性能機種であるドリームキャストが、 全く持って宝の持ち腐れです。

また、もうひとつ目新しいシステムとして、フリーバトル というものがあります。
まあ、早い話が3D格闘ゲームの様にコマンド入力で技を出し、 ベルトスクロールアクションの様に、群がる敵を殴り倒していくといった感じです。
ここで使える技というのは、技が示されている秘伝書を見つけて読んだり、 街で出会った人達に教えてもらったりするのですが、 教えてくれる相手というのが、近所のお爺さんや、ホットドッグ屋を営む 怪しい外人だったりしてどうにも不安です。

ちなみに、体得した技は、功夫を積むことによって、威力を上げることが出来ます。
空き地や公園で黙々と練習に励む涼の姿は、不審者の一歩手前です。

そもそも、主人公である涼は芭月流柔術の使い手なのに、 八極拳やらプロレス技なんかを覚えていいものなんでしょうか?
芭月流柔術はバーリートゥードの様に節操がありません。

ほかにも、無免許でバイクやフォークリフトを乗り回したり、 夜の港で70人のチンピラを叩きのめしたり、ツッコミ所は枚挙に 暇がありません。
最後にゃ、パスポートを取らずに中国に渡ってしまうし…。(密航!)

たぶん製作スタッフは、壮大なスケールの、感動大作を作りたかったのでしょうが、 どうにも微妙にピントがずれていて、プレイヤーからしてみると、 天然ボケのB級迷作にしか思えません。
ですが、愚直なまでに作りこまれた本作は、そういった点も非常にいとおしく思えるのが不思議です。
筆者にとってはこの作品こそが、愛すべき友といった感じです。

結局、50万本を売り上げたにもかかわらず、莫大な制作費がネックとなり、 大赤字を計上することになってしまいました。
ドリームキャスト本体の売り上げを伸ばすために、この作品はある程度の赤字は覚悟の上で製作されたそうですが、 奇しくもこの作品が、撤退を早める一因となったのは皮肉な話です。
また、この後、看板作品のRPGをクリエイターの一存と独断で映画化し、 会社が傾くほどの損失を出して、ライバルのE社と 合併するハメになったS社は、この前例を全く持って生かせておりません。

如何に会社に利益をもたらしてきたクリエイターでも、 ご褒美といって、好き勝手にやらせてはいけないという事です。 作品作りと製品作りは別物ですからね。 金勘定は出来ない人達なんですから…。

個人的評価 ☆☆☆☆
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