魔法の少女 シルキーリップ |
僕の二十年余りに及ぶセガ信者歴の中で、メガドライブは思い出深い存在だ。 メガドライバーと自称する熱心なファンは、当時のライバルだったスーファミやPCエンジンを敵視し、 プログラム技術やハードスペックなどといった細部に興奮し、クソゲーはプラモデルのランナーのようにバッサリと切り捨てていた。 そんなゲーム性至上主義が吹き荒れていたハードだったせいか、ギャルゲーに対しては風当たりが強かった。 当時のPCエンジンは大容量のCD-ROMを活かして音声やアニメーションを詰め込み、女の子キャラクターの魅力を前面に押し出しているものの、肝心のゲーム性がおろそかになっている作品が多かった。 これを蔑んでいたメガドライブにおいて、発売されたギャルゲーといえば、「アリシアドラグーン」や「バトルマニア」のような、女の子が主役のアクションかシューティングに限られていた。 こういった状況下で発売されたのが、「魔法の少女 シルキーリップ」だった。 僕は雑誌の記事を見て度肝を抜かされた。 「さすがにこれは受け入れられんだろう」というのがメガドライバーの一致した見解だったと思う。しかし、発売からしばらくすると、 メガドライブ専門誌の読者から非常に高い評価を得ていた。 ストーリーは魔界の魔導小学校に通う落ちこぼれの魔女見習いリップは、ある日ひょんな事から次期女王候補として、お目付け役の聖獣ケチャとともに、
人間界で修行することになった。 見てもらえばわかるように、この作品は魔法少女アニメに対するオマージュである。 演出面もこれに準じており、毎回、各話の最初と最後にはそれぞれ主題歌が流れ、話の折り返しにはアイキャッチが挿入される。 ジャンルはアドベンチャーで、俯瞰視点のマップを探索し、情報を収集し話を進めていくのだが、 また特筆すべきシステムとして、会話モードがある。 そして何よりも注目して欲しいのはシナリオである。 第一話からして、落ちこぼれゆえに魔導小学校の生徒には邪険にされ、人間界に来れば公園で学級委員がホームレスをいじめているのを目撃し、 ホームステイ先を探して町を彷徨い、道を聞けば露出狂と戦う羽目になったりと散々である。 おいおい、魔法少女ものっていうのはさあ、もっとこう、愛と夢に溢れたものじゃなかったかな? その後も、学校の先生に魔法のペンダントを盗まれたり、母親に絞殺された少女の幽霊に出会ったり、 自分がかけた魔法の影響でホームステイ先の主人が発狂して、斧を振り回しながらパンツ一丁で街中を闊歩したりと、プレイヤーにトラウマを植えつけるつらいエピソードが続く。 本来、この手の作品ではこういった暗部は除外されるものである。 いうなれば、このゲームの正体は、異界からの視点を通して人間世界を再認識する、魔法少女に擬態した純文学ではなかろうか。 「人間世界は美しいことばかりではないけれど、それでも愛さずにはいられない」 個人的評価 ☆☆☆☆ |
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